【前置き】
この「横浜時計物語」は2011年に時計Beginに1年間連載させていただいたものを、時計用語等を一般的にもわかりやすくしたり、現状に照らし合わせて加筆修正したものです。
私が映画の「ウォール街」に感化されて大学卒業後に大手証券会社に就職したのは、平成元年のバブル真っ盛りの頃である。当時の証券業界は、大学を卒業したての22歳の若造には、とてもインパクトのある世界だった。しかし、やがてバブルは崩壊し、土地も株も下げに下げ続けていくのは御承知の通りである。「物の価値って一体何だろう?」当時の私に大きな疑問を投げかけてくれたことは言うまでもない。電話一本で何千万、何億というお金が右から左へ流れていった時代が、いとも簡単に終わりを遂げていったのである。この時の経験が今の私の根本的な考え方を支えているのかもしれない。景気が良かろうが悪かろうがきちんと評価されるべきものは変らないのではないかという考え方である。
そして、リーマンショックや震災、コロナ渦等の時代を経て来た今だからこそ、その考え方を大切にしたいと思っている。当社が扱っているブランドが、年数を経ても殆んど変っていないというのもその為である。
私が証券会社でこのバブル崩壊に翻弄されている中、宝石店を経営する父が急に入院することとなってしまった。私は父の入院中の仕事の手伝いをするために、勤めていた証券会社にしばらくの「休暇願い」を出したのである。正直それまで父の仕事を継ぐという意識はあまりなかったのだが、この入院がきっかけで結果的には父の仕事を手伝う決心をしたのである。病院のベッドの枕元に実印と小切手を持ち込んでいた父の姿を見て・・・・。(第2回の後編に続く)
